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本土防空の最後の切り札・十八試局地戦闘機「天裂」の詳細
十八試局地戦闘機「天裂」J8W1 諸元(計画値)
全幅 | 12.50 m |
全長 | 10.80 m |
全高 | 4.15 m |
エンジン | 中島「ハ54」空冷星型18気筒(離昇2,200馬力) |
最高速度 | 720 km/h (高度11,000m) |
武装
機銃 | 五式三十粍固定機銃 ×2 (機首) |
斜銃 | 試製二十粍斜銃 ×2 (胴体) |
乗員 | 1名 |
本土を蹂躙する超空の要塞
昭和19年(1944年)後半、マリアナ諸島を基地とする米軍のB-29爆撃機による本土空襲が本格化すると、日本の防空体制は深刻な機能不全に陥った。
高度1万メートルという成層圏を飛行するB-29に対し、日本の主力戦闘機はその高度まで到達することすら困難であり、迎撃は絶望的な状況であった。
この状況を打破すべく、海軍航空技術廠(空技廠)において、究極の高高度迎撃機「十八試局地戦闘機」、のちの「天裂(てんれつ)」の開発が秘密裏に進められた。
開発経緯
開発計画が始動したのは昭和18年末。海軍は空技廠に対し、B-29迎撃という単一の目的のため、既存の計画とは一線を画す新型機の開発を命じた。
要求性能は、高度1万2千メートルで最高速度700km/h以上、1万メートルまでの上昇時間15分以内という、当時の日本の技術水準を遥かに超えるものだった。
開発陣は、この難題を解決すべく、当時開発中だった幻の大出力エンジン「ハ54」の搭載を前提とし、高高度飛行に不可欠な与圧気密室(与圧キャビン)の導入を決定。全ての技術をB-29撃滅という一点に注ぎ込む、極端なまでに割り切った設計思想が「天裂」の根幹を成した。
機体の特徴と性能
「天裂」は、その異形の姿からも、B-29迎撃に特化して設計されたことが窺える。
エンジンと推進方式
機体中央に大出力エンジン「ハ54」(離昇2,200馬力)を搭載し、延長軸を介して機体尾部の二重反転プロペラを駆動する推進式(プッシャー式)を採用。これにより、機首部分の空気抵抗を減らし、重武装の搭載を可能にした。
武装
主武装として、機首に大口径の「五式三十粍固定機銃」を2門集中配備。さらに、B-29の防御火器の死角となる下方から攻撃するため、胴体中央部に機体対し30度の上向きに取り付けられた「試製二十粍斜銃(ななめじゅう)」を2門装備した。一撃離脱戦法に特化した、強力な武装であった。
機体構造と与圧キャビン
主翼は、高速飛行時の抵抗を低減する層流翼を採用。最大の特徴である与圧キャビンは、極度の低圧・低温環境下で搭乗員の身体能力の低下を最小限に抑え、成層圏での戦闘を可能にするための切り札であった。
幻の戦歴
昭和20年夏、数少ない増加試作機が本土防空部隊に実験的に配備される。「天裂」は、東京上空に来襲したB-29編隊に対し、その高高度性能を遺憾なく発揮。
僚機が到達できない成層圏に軽々と駆け上がり、下方からの斜銃攻撃によってB-29を撃墜するという戦果を挙げた。
しかし、その活躍は限定的なものに終わる。複雑な構造ゆえに生産性は極端に低く、稼働率も芳しくなかった。
何よりも、この異端の迎撃機を乗りこなせるだけの経験豊富な搭乗員は、もはや日本には残されていなかった。
終戦までに完成した「天裂」は、試作機を含めて僅か5機。その全てが本土防空戦で失われた(または終戦時に処分され)、現存する機体はない。
成層圏の要塞を討ち滅ぼすべく、日本の航空技術の粋を集めて生み出された「天裂」。
もし、その登場がもう少し早ければ、日本の空の戦いは、また違った様相を呈していたのかもしれない。